先日、同じ仕事のチーム内のMさんに「あなたの原稿嫌い!」と言われた。
Mさんはディレクターさんで、わたしの書く原稿の構成案を作ってくれたり、校正したりしてくれる人だ。
互いに外部のフリーランスなので、深く関わるわけではないが、必要なことや連絡をテキストメッセージでやりとりする。
Mさんは最初の頃、素直にわたしの原稿について褒めてくれたり、適切なフィードバックをしてくれたりしていて、わたしとしては好印象だった。
しかしある日突然Mさんから「あなたの原稿嫌い!」というメッセージが入っていた。わたしはその文面を見てドキッとしてしまった。
「あなたの原稿は、直すところがあまりないから、私が仕事していないように見える。手直しする箇所も少ないから、つまらない。あなたの原稿嫌い!」というメッセージが添えられていた。
これは、本音なのか。それとも冗談なのか。未だにわからないでいる。
原稿の校正というのは、直すところが多ければ多いほど、赤入れの数が多くなり、原稿が複雑でごちゃごちゃして見える。
ごちゃごちゃしている原稿ほど「校正担当や編集者が頑張って直した」ということになる。
だから、直すところのない原稿というのは比較的見た目が整っていて、視覚的変化が少ない。そういう原稿は、校正者や編集者があまり仕事をしていないように見える、サボっているように見える、という理屈なのだ。
わたしはMさんが気の利いた冗談を言っているのか、本気で嫌がっているのか、どっちなのかわかっていない。テキストメッセージだからわかりにくいのもあるだろう。
でも今回は「いいように受け取る」ことにした。
「わたしはMさんの構成案もフィードバックも好きです」と返した。
純粋にMさんとの仕事はやりやすかったので、素直にそう返したがとくに返信はなかった。相手の話をがん無視して、自分の意見を言った。
他によい返しがあっただろうかと、ときどき思い出す。
冗談の解読は難しい
今回のMさんのメッセージが果たして冗談だったのか、本音だったのかはわからない。
でも、わたしはきつい冗談でわたしを褒めてくれていると受け取ることにしたのだ。
ライターとして「直すところが少ない」と言われるのは自分の腕を信じてよい証拠である。だから、わたしにとってプラスになる情報なのだ。
Mさんとしては、それをただ伝えるのでは芸がないと思い「あなたの原稿嫌い」という真逆の印象を与えるキツイ言葉で表現した。わたしはそう解釈しているのだ。
でも、正直難しいよ、Mさん。
わたしは冗談を言うのも解読するのも苦手で、疲れてしまう。
昔からそうだった。
そもそも軽い冗談さえすぐに理解できないので「〇〇やってよ」と言われたら言われたとおりにしてしまうとか、真剣に断ってしまって「冗談なんだけど?」と言われるようなケースが多かった。
たとえば、わたしが若くして結婚していることを話すと「ヤンキーなんだね!」と言う人、ある女性芸人に似ていると言われて「ほらあのネタやってよ!ほらほら」などと言う人に何度も出会った。
「嫌です」と断ると、相手は決まって「冗談だよ」と言う。
本当に冗談なのか?そこでわたしがやったら場が盛り上がるのか、シラケるのか、さっぱりわからない。冗談って本当に難しいよ。
こういうのは人によっては「失礼」にあたってしまう可能性も高いんじゃないか。
「親しい仲」の判断基準が人によって違う
冗談は、相手との親しさによってどこまでやってよいかが異なると思う。
それなりに親しい友人同士だったら、相手をいじったり、からかったりすることも多少はあると思う。それによって笑いが生まれることもある。
わたしは昔からいじられることが多いのだけど「この人にはいじられてもよい」「冗談でからかわれてもよい」というラインがある。しかも「相手との親密度」って、目に見えるものじゃないし確認し合うものでもない。
でも、基本的に人の言ったことは「本気」として受け取る節があるのだ。
しかし今回、Mさんはわたしに対して、前よりも親密さを感じてくれていたのではないか。だからキツイ冗談を混ぜてきたのではないか。
ただ、わたしはMさんに対してまだまだ距離が遠かった。
だから「この人がどんな意図でこれを言っているのかわかりにくい」ということが起こった。
今までは冗談を悪い方に解釈してムカッとしたり、本気にして怒ってしまうこともあったが、最近は少しそれが落ち着いたかなと思う。年齢を重ねると、だんだんいじられることもなくなるし。
冗談や笑いには「センス」が必要
だから結局、冗談や笑いには、センスが必要なんだと思う。
相手との距離感の測り方、観察力、言葉の選び方、タイミングや間合い、表情や声色などの非言語要素。
相手にちゃんと意図が伝わって、相手を不快にさせないラインを探らなければいけないんだ。「自分がおもしろいと思うことを言えばいい」というわけではない。テレビ番組やお笑い芸人だって、そうでしょう?
わたしが冗談を言わないのは、これがもともと得意じゃないし、そこを研究してもいないからだ。
相手を傷つけるようなことを言う可能性もあるし、一線を越えてしまう可能性もあるし、ドンズべりして自分の立場を危うくする可能性もあるから。
だから、センスに自信がないことをあえてやらないようにしているのだろう。
冗談って、相手との距離を縮めたり、相手との空気を和ませたりするために使うものだと思うんだけど、それが逆効果になってしまうことって結構多いんじゃないかな。
それともやっぱり、わたしが冗談を理解しにくいだけなのかな。ここはまだまだ、結論の出ないところである。