わたしは、最果タヒの詩集を映画にした『夜空はいつでも最高密度の青色だ』がとても好きだ。
4~5回は見ている。ときどきふっと思い出したりする。
都会に住む若い男女と、その周囲を取り巻く人々の話。監督は石井裕也で、池松壮亮と石橋静河が主演。
その他出演者はめちゃくちゃ豪華だが、実に地味で特段話題になったというわけでもない。
この映画を好きな理由はいくつかある。
まず第一に「マイノリティ」で「変」な若者を描いているように見えたから。
率直にいえば、主人公の慎二と美香はASDっぽさが強い。
慎二は、映画の序盤から仕事仲間に一方的に話しすぎて「うるさい」「黙れ」と言われる。数字へのこだわりや、小さな傷を過剰に心配して執着するなど、特性の強さがわかりやすく描かれている。
慎二に対しては、複数のレビューで「アスペルガーっぽい」「発達障害だ」というコメントが見られた。やはり男性のASDは、特性がはっきりしていたり、よく知られているのだなと思う。
一方、わたしは美香も女性のASDを描いているように感じる。
女性同士の会話が異常にぎこちない。「うん」とか「ううん」とかしか言わないし、ほぼ苦笑いで乗り切っている。
自宅でカメを飼育し、空手に興味を持つ。髪の毛はショートカット。ファッションはいつもジーンズにシャツでボーイッシュだ。
女性が当たり前のようにする恋愛や、異性の話に共感ができない。しだいに、恋愛すると人間はバカになるといい周囲を見下すようになる。
知人の葬式のあと微笑んだり、急にくるくる回って踊るようなそぶりをしたりするところ。
「恋愛とはなんなのか」「死ってなんなのか」を常に問い続けていて頭の中が忙しそうなこと。
なぜなぜ人間。頭の中がいつも疑問だらけで、哲学的で答えのないことばかり考えてしまうんだよね。
昔の恋人に呼び出されて、緊張しているのかしゃべりすぎるシーンがある。
しゃべろうとすれば、疑問、頭の中に浮かんでいることがそのまま出てくる。だから場違いなことばかり言ってしまう。
周囲は「どうしたんだよ?今日はよくしゃべるな」とか、言う。
わたしは美香の行動の所以が、がんばらなくても理解できてしまうし、なんでこういう言動をしているのか想像がついてしまう。
あと……
慎二が同じアパートの住民のおじいさんと、やり取りするシーンがすごく好き。いつも慎二はそのおじいさんのゴミ出しを代わりにやっていて、本を借りるんだよね。
ごみを受け取って、本を返して借りて、玄関の箱に入ったお菓子をいくつか受け取る。このルーティンでつながっているのが、ものすごく安心するし羨ましいなと思う。
でも、いちばん衝撃を受けたセリフは「愛って言葉を使うと、口から血のにおいがしない?」という一言だ。
愛って言葉が嫌いで、愛って言葉を簡単に使う人間に気持ち悪さを覚えるので、こんなに的を射た表現が他にあるのかと、頭を打ちぬかれた気持ちだった。
映画の序盤では、二人ともなんだか浮いていて、落ち着かなくて、どこにも馴染んでいない感じがあるのだけど、終盤では表情がやわらかくなり、自然な姿になる。
それでも、最後の美香の笑いかたが、自分の写真の引きつり笑顔にそっくりだったので、本当に自分を見ているような映画だった。
この映画は孤独を伝えたいのだとか
へんてこな発達障害者や毒親育ちの
生きづらさを描いたとか
不器用な人への応援だとか
いろいろ解釈はあると思うけど
わたしは、とにかく自分がそこにいるような気になれる映画だ。眺めているだけでもいい。