先日、友人がわたしに
「知人にずっと嘘をつかれていたことがわかって、ショックだった」という話をしてくれた。
その友人は、こころの持病をもっているが、今はとても元気に暮らしており、外見や振る舞いからはそれを感じさせない。
付き合いが長くなっていくなかで、お互いの凹凸の話や特性からくる失敗談、神経発達症(発達障害)の診断や自覚の話ができるまでになった。
以前から、わたしと彼女は自分たちが「非常に騙されやすい」「ごまかしや嘘を見抜けない」という特徴があることで、共感しあっていた。
彼女の話をよくよく聞くと、何年もの間、知人から嘘やデタラメを聞かされていたことにはっきり気づかされるできごとがあったそうだ。
嘘をつく人のことを「何なの!?」と怒っているのではなかった。
「どうして、わからなかったんだろう」
「ずっと信じて真剣に聞き続けて、真に受けて、なんだかバカみたい。それにすごく混乱した」
彼女が、その相手のことをとやかく言いたい気持ちも当然あったと思うけれど、それ以上に、気づけない自分、見抜けない自分に対してのショックというか、情けなさのほうにも比重があるように思った。
それは、わたしもまったく同じだからだ。
そういわれてみれば、虚言癖のような人がつく嘘は、常識的にあり得ない話なことも多い。
だって、人を惹き付けるためにつく嘘なわけだから、他人が聞いてびっくりしたり、スゴイ!と思うような内容でなければ、彼らにとっての意味がないからだ。
でも、それに対して疑うということができない。
「へぇ、ずいぶん寛大なんだなぁ」とか「めずらしいひとだなぁ」など、平凡な感想を抱きながらも、相手の意のままに考えてしまうのである。
悔しいのはここで「嘘だ」とわかれば「確かに辻褄が合わない」「確かに少し変だなと思った」「あの話もおかしいぞ?」と、答え合わせができる。
つまり、何年もの間に、ちょこちょこと違和感をいだくことは多少なりともあったということ。でも、そのちょこちょことした細かい情報を統合して、つなげて、全体像を見る力が弱いということなのではないかと思う。
ASDの中枢性統合
ASDは、中枢性統合の力が弱い傾向にあるとされている。中枢性統合とは、入力される情報を文脈や背景、一連の流れなどのなかで統合して考えること。
細かな、ひとつひとつの情報に注目してしまい、全体像を見ることが苦手。木を見て森を見ず、のようなことになる。
ASDの騙されやすさが、中枢性統合の弱さからきているというソースはなく、中枢性統合の弱さが社会性に関連しているかどうかは一貫した見解が得られていないようだ。(※1)
ただこの、ひとつひとつの情報を一連の流れや文脈の中でつなげて、全体を把握するというのは、確かにめちゃくちゃ苦手なところである。
あくまでもわたしの場合だが「違和感」「違和感」「違和感」と、他人に対して複数の違和感をもったとしても、それをつなげる力が弱いために、相手を評価するのが遅くなる。
評価、というのは優劣ではなく「自分との相性がよいか」「好きか、嫌いか」などである。
ASDのような認知でない人は、ちょっとした違和感が少しでもあれば関わらない、距離をとる、信じない、など自分の意志や行動につなげることができるのではないか。
でも、ASD傾向の場合、相手の話の内容やその細部に注目して、それで終わってしまう。複数の物語のページが散乱していて、1冊の本にすることが難しいので「これは童話だ」と判断できないのである。
コントロールされやすい自覚を持つ
虚言癖そのものは病気ではないが、相手も同じように神経発達症傾向があったり演技性PDだったりすると思うので、そこについてはどうでもよい。
問題は、こちら側にも要因があるということなのだ。
というのも、わたしもその友人も「他の人はみんな気づいていた」とか「なんでそんなこと信じるの?」とか「なぜ気づかないのか」と、周囲から呆れられたり釘を刺されたりする経験が何度もあるからだ。
つまり相手からすると、騙しやすいし、コントロールしやすいタイプの人間なのである。これまでの人間関係を振り返っても、毎回同じパターンでひっかかている。
だからこそ、失敗を重ねて、その都度データをとって、それぞれのデータの共通点を見つけて、統合して「ルール」を作るのだ。
たとえば、「3回違和感を感じたら付き合わない」「3~5秒以上の沈黙が開かない人は要注意」みたいに具体的な数字を用いると決断しやすい。
いい人そうとか、明るいとか、そういう外見的な魅せ方に騙される部分もあるので、自分の中のルールや手順を決める。
とにかく、日々の人間関係は観察とデータ収集なのである。これは擬態で身に着けた技術というかノウハウなのかもしれない。
でも、こうしないと本当に同じことの繰り返しになるし、逆を言えば、こうしていけば自分にとってよくない人間をこれまでより早めに察知できるようになる。(実証済)
とはいえ、失敗の連続。
また失敗。またやっちゃった。また、見抜けなかった。
そのショックは、わたしは誰よりもわかる自負があるので、同じような体験をした人はどうか、気を落とさないでほしい。
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参考文献
(※1)自閉スペクトラム症の認知機能(藤岡徹)Jpn. J. Learn. Disabilit., 2017, 26(4), 474-483.
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