自閉スペクトラム症(ASD)はパニックを起こすことがある。正確には「パニック」という表現ではなく「メルトダウン」という現象。「パニックになる」という言葉は非常に広い意味を持つ言葉であり、一般的な人にもあること。
しかし、ASD特有のメルトダウンを深く理解していないことも多い。わたし自身、この現象を知ったのは30歳くらいの頃だった。それまで自分の意に反して陥ってしまう症状や行動のことを「おかしな行動」「迷惑をかけている」と認識して(実際はそうかもしれないが)自責の念を強めてしまっていた。
「自分はおかしいのではないか」「人間性に問題があるのでは」という風に感じ、恥ずかしいことという気持ちもあった。
ASD特有のメルトダウンには、大枠で法則性があることを知っておくべきだと思う。決しておかしな行動ではなくて、ASDが特定の場面でメルトダウンを起こすのは自然なことであると考えるほうがよい。そして自分の身に起こっていることがメルトダウンという現象であることを知るだけで、不可解な部分がスッキリと晴れて、どのように行動すればメルトダウンを回避できるのかがわかるようになると思う。
ASD特有のパニックとメルトダウンとは?
いわゆるパニックと、メルトダウンとは違った意味合いを持つ。パニックとメルトダウンは同じような意味で使われるし、似たような側面もある。ただ。パニックよりもメルトダウンの方がより的確でぴったりな表現方法である。海外では、ASDが起こすパニックのことをメルトダウンと呼ぶ。
メルトダウンとは?
メルトダウンとは、脳内で刺激や情報の処理が追い付かないことで、機能が停止・崩壊・爆発してしまう状態。メルトダウンは次のような場合に起こるもので、その人なりの法則性がある。
- 感覚刺激が過剰になったとき
- ストレスが限界値に達したとき
- 変化についていけなくなったとき
- 状況をコントロールできないことに不安を感じたとき
このような状況によって強い不安やストレスを感じたとき、またはストレスが限界値に足した結果として起こる現象だ。
一方パニックというのは、強い恐怖や危険が迫っているときに、理性的・合理的でない行動をとってしまうことをいう。メルトダウンも、理性的でない・合理的でない行動をとるが、そのきっかけが違う。メルトダウンは、自分の頭の処理能力が限界を超えてしまうことで、溢れたり、停止したり、爆発してしまう(制御不能)という状態だ。原理力発電で用いられている言葉のイメージとぴったり重なる。
メルトダウンの表れ方
メルトダウンの表れ方や、感じ方には個人差があるが代表例としてよく挙げられるのは以下のようなものがある。性別による差や元々のタイプによっては、これ以外の症状が出ることもあるし、これらのうち少数しか当てはまらないこともある。
- 思考停止
- 泣く
- キレる
- 人をシャットアウトする
- 怒鳴る
- 物を投げる
- 暴力的になる
わたしのメルトダウン(経験談)
わたしの場合、上記の表れ方すべての経験がある。日常的には、思考停止やシャットアウト、泣きなどがメインで、場合によっては物を投げたり怒鳴ったり暴れることもある。ここではわたしのメルトダウンのエピソードを例として挙げてみようと思う。
思考停止
旅行先の見知らぬ駅で家族を見失い、思考停止のメルトダウンを起こす(今ここがどこかわからない、どこに行けばいいか、何から考えればよいかわからなくなるなど)
泣き
アルバイト先のカフェのお昼のラッシュでミスを連発(ADHD要素もあるため)した挙句、上司に叱られて泣きのメルトダウンを起こす。(仕事先や学校では泣きのメルトダウンがあった)
キレる
予定の急な変更や、思っていたスケジュールと違うことを言われると急にキレる。混乱と不安でいっぱいで、冷静な説明や話し合いができない。それが第二感情として「怒り」になって表出する。
シャットアウト
ストレスの多い状態が続いたり、体調不良などが重なると家族や子どもの話が頭の中に入ってこない。目を見ることもできなくなり、接触をシャットアウトしてしまう。
叫ぶ・物を投げる・暴力的になる
家族と意思の疎通ができないとき(相手の気持ちがわからない、自分の思いが伝わらないとき)に、家族が居なくなったあとで物を投げたり地団駄を踏んだり、壁を蹴ったり、叫んだりすることがある。
自分で勝手に怪我をすることもあるし、木製のドアを蹴って穴を空けたこともある。ただし攻撃的なメルトダウンは、年齢と共に減ってきてはいる。
またどれにも分類できないメルトダウンもあった。外出先から帰宅したときに部屋が散らかっていると、疲労やストレスで視覚情報の処理が追い付かずメルトダウンを起こした。キレて泣きながら部屋を片付けはじめ、声をかけられても反応できない。無心で怒り狂って部屋を片づけていた、なんてことも。
思考停止・泣き・シャットアウトなどが起こると、自分がとても情けなくて恥ずかしい人間に思える。一方、攻撃的なメルトダウンのあとは自分が恐ろしくなるし、むなしくも感じる。
男性のメルトダウンは攻撃的・女性のメルトダウンは泣きが多い?
男性の場合、元々衝動性や攻撃性が女性よりも強いので、怒鳴ったり暴力的になったりすることもある。一方女性の場合は、思考停止や泣きのメルトダウンが起こるケースが多いという話も聞く。
しかし、女性でもタイプや状況によっては衝動的で攻撃性のあるメルトダウンを起こすこともある。わたしの場合「人に危害を加えてはいけない」という気持ちも強いため、ひとりになった瞬間に暴れたり、ひとり部屋にこもってから暴れるようにしている。
しかしASD要素があると感じるわたしの母親も、同じように攻撃的メルトダウンを起こしていたので、女性でも男性でも状況次第、もしくはASDの強度によると思う。
自傷行為・自己刺激行動・常同行動も関連しているのでは?
わたしの場合、ストレスや刺激が限度を超えて、メルトダウンしたときに、ASDらしい特徴が出るように思う。たとえば、強い感情の揺れを処理することができないので、強い怒りや憤りを感じると自分の寝室に行って頭を強く叩くいたり、枕に顔をつけて大きく叫ぶ。すると、スーッと落ち着く。これは自己刺激行動(もしくは自傷行為)にあたると思う。
また、メルトダウンを起こしかけたときには、耳をふさいで体を前後に揺らしたり、両手で顔や目元をグーっと圧迫すると少し落ち着く。これも自己刺激行動だと思う。
日常のちょっとした作業中にも、常同行動がある。後頭部を手のひらで軽くポンポンとリズミカルに叩くこと。わたしはいっぺんにたくさんのことを考えるのが苦手で、たくさんの刺激を同時に処理できない。今考えていたことを忘れてしまって、その記憶を呼びもどすために5~10秒ほどの時間を要する、ということもある。頭をポンポン叩くと落ち着いたり、少し安心するのでついついやってしまう。脳に負荷がかかっているので、自覚しないレベルのストレスを感じているんだと思う。こんなとき、何かしらの反復行動をとることで、自分を癒しているのだと思う。
ただ、親しい友人知人以外の人がいるところ、とくに仕事相手の前や慣れないコミュニティなど、緊張するような場所ではこのような常同行動はしない(していないはず)
ASDのメルトダウンは自己理解で徐々に改善する
メルトダウンは、年齢を重ねたり自己理解を深める中で少しずつ改善してきている。「自分はどんなパターンで制御不能になるのか?」「自分が制御不能になって起こす行動にはどんな理由があるのか?」という風に考えていくと、それは決しておかしな行動ではないように思えてくる。
表れ方には個人差があるものの、原因を知らない限り強い自己否定と絶望感を抱くだろう。(原因を知っても、絶望感は消えないかもしれないが)
ただ「受けた刺激や情報が、自分の処理能力を超えてしまったために、停止・崩壊・爆発している」という物理的な問題と捉えると、納得できるのではないだろうか。
メルトダウンのきっかけになりやすいことや、対処法などについても、今後追記していこうと思う。
コメント